「狭心症」・「心筋梗塞」とは?
人の組織には、血液中の酸素や栄養を届ける為に血管が張り巡らされています。もちろん、心臓にも同様の血管が存在し、心臓の組織(主に心臓を構成している筋肉)に酸素や栄養を届ける血管は冠動脈(かんどうみゃく)と呼ばれています。
多くの方の冠動脈は左冠動脈と右冠動脈に分かれており、心臓を抱きかかえるように走行しています。
冠動脈も他の動脈と同様に、糖尿病や脂質異常症(高コレステロール血症)、高血圧、肥満などの様々な生活習慣病や、喫煙や運動不足などの生活習慣が原因で「動脈硬化」を起こします。
動脈硬化を起こした冠動脈では、血管の内側にアテローム(粥腫)と呼ばれる、脂質を中心とした沈着物が病的に集まることで、血管が部分的に細く(狭窄)なってしまいます。
心臓が運動などによって沢山働く必要がある時には、その分多くの酸素を必要とします。しかし、血管の狭窄があることで届けることのできる酸素量が減ってしまい、胸の痛みなどを引き起こした場合、これを「狭心症」と呼んでいます
また、アテローム(粥腫)は柔らかく、一度破けるとその周囲では血液が固まって血栓を作ってしまいます。これによって血管が詰まって(閉塞)しまうこともあります。
閉塞によって先の血管に酸素を送り届けることができなくなった結果、心臓の筋肉が壊れて胸痛が持続するものを「心筋梗塞」と呼んでいます。
また、動脈硬化がない場合でも、まれに血管の痙攣によって一時的な冠動脈の狭窄が起こる場合があり、これを「冠攣縮性狭心症」と呼びます。
どんな症状がでるか?
心筋梗塞では、急激に激烈な胸の痛みを感じることが多く、15分以上持続します。労作性狭心症と同様に関連痛を生じる場合も多くあります。
心筋梗塞などで心臓の筋肉にダメージがあると、心不全になり、強い息切れや倦怠感、低血圧などに陥ることや、ダメージを受けた部位を中心とした不整脈が起きることもあります。また、心臓に穴があいてしまうなどの重篤な合併症が出現することもあります。
いずれも、亡くなってしまう可能性のある症状であり、慎重に治療することが必要です。
糖尿病患者さんや、ご高齢の方の場合、胸の痛みが出現しない場合もあり、息切れなどの心不全の症状や、動悸や失神などの不整脈の症状で気づかれることもあります。
どのように調べるか?
心筋梗塞や狭心症の診断は様々な検査を行い、その結果を統合して判断する必要があります。
また、狭心症や心筋梗塞の合にはすばやく治療へと繋げることが大切な場合も多く、複数の検査を同時に行うこともあります。
身体所見
もっとも大事なのは身体の現在の状態を診察して見極めることです。痛みの性状や、部位、いつから痛いのかなどを問診し、胸の音を聞いて心臓の状態を確認します。
心電図
心電図は患者さんへの負担も少なく、すぐに情報が得られる為、もっとも行われる検査の1つです。心臓に送られる血液が足りなくなると、心電図の波形が変化します。これは時間を追って変化する場合があり、胸の痛みを訴える方には複数回心電図を取らせていただくこともあります。
その他にも運動をした際の心電図波形を観察する「運動負荷心電図」や、24時間心電図を確認する、「ホルター心電図」などもあります。
血液検査
心筋梗塞の状態となると、心臓の筋肉が壊れて細胞内の成分が血液中に漏れ出ます。それらを血液検査で確認します。また、脂質異常症や糖尿病などは動脈硬化を進行させる為、血液検査を行って、食事療法や薬物治療が必要かを判断することも重要です。
心臓核医学検査
放射性同位元素を静脈内に注射し、心臓への取り込みを確認する検査です。薬剤や運動によって負荷をかけることもあります。狭窄した血管が実際に心臓にとって負担となるような狭窄なのかどうかを見極める為に用いられます。 また、心筋の障害をみる為や、炎症をみる為に、別の核種を用いる検査も行われています。
冠動脈CT検査
造影剤を静脈内に注射し、CTを撮像します。実際に冠動脈に狭窄や閉塞した病変がないかどうかを調べる検査です。
心臓カテーテル検査(冠動脈造影)
手首や足の付け根の動脈から細い管(カテーテル)を冠動脈まで進めて、造影剤を注入します。実際に細くなっているところを確認することができる検査です。また、そのまま治療(経皮的冠動脈形成術)を行うこともあります。治療後、動脈からの止血を得るために安静にしている必要があるため、入院して行います。
カテーテル検査の様子
カテーテル検査で造影された冠動脈
どのような治療方法があるの?
薬物療法
硝酸薬やカルシウム拮抗薬などの血管拡張薬を用いて冠動脈を広げることで血流を良くする方法と、ベータ遮断薬を用いて心臓の仕事量を減らして酸素の需要を減らす方法があります。また、「アスピリン」などの抗血小板薬を用いて、動脈硬化が進んだ血管で血小板が集まって血栓を作るのを抑える薬剤も用います。
経皮的冠動脈形成術(ステント留置術)
カテーテルによる治療です。手足の動脈から入れたカテーテルの中から風船(バルーン)を血管の狭いところまで進めて、丁度狭いところで拡張することで血管を広げます。多くの場合、ステントと呼ばれる特殊な金網の筒をそこにおいてくることで、再狭窄しないようにします。
冠動脈バイパスグラフト術
経皮的冠動脈形成術では困難な場合や、危険を伴うときには、心臓外科の先生と協力して治療をします。直接、病変をまたぐように心臓の血管をつなげます。つなげる血管は足の静脈や、胸や胃の周囲の動脈が良く使われます。
心臓リハビリテーション心臓機能と身体の他の筋肉(骨格筋)にはとても密接な関係があります。心筋梗塞を起こした後には、心臓も、骨格筋もトレーニングが必要です。安全に、そして確実に効果のある運動を定期的に行うことが、患者さん自身の生活の質(QOL)を改善し、再発を予防します。また、心臓自体の機能改善のためにも大変重要であることが分かっています。
心臓リハビリテーション
心臓機能と身体の他の筋肉(骨格筋)にはとても密接な関係があります。心筋梗塞を起こした後には、心臓も、骨格筋もトレーニングが必要です。安全に、そして確実に効果のある運動を定期的に行うことが、患者さん自身の生活の質(QOL)を改善し、再発を予防します。また、心臓自体の機能改善のためにも大変重要であることが分かっています。
予防治療
一度心筋梗塞や狭心症を起こした方は再度心筋梗塞や狭心症を起こす可能性が高いことが分かっています。また、多くのリスク疾患を持っている方も同様です。糖尿病、脂質異常症(コレステロール)、高血圧、肥満、喫煙、運動不足、精神的ストレスなどの危険因子を改善し、予防の為の抗血小板薬の内服を継続します。
当科での治療成績
当院でのカテーテル治療の実績を示します。診断の為のカテーテル検査を含めると、もっとたくさんの方が検査を受けておりますし、経皮的冠動脈形成術ではなく、心臓外科に冠動脈バイパスグラフト術を依頼したり、保存的に加療をする判断をする方も含めて、多くの方が当科で検査・診断・治療を受けておられます。
胸痛や息切れを有する方は是非かかりつけの医師に相談の上、受診していただければ幸いです。
2023年 PCI治療実績 ↑
PCIの年次推移 2002年~2023年 ↑
総カテーテル治療年度推移 2002年~2023年 ↑