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高血圧症(こうけつあつしょう)

(1)高血圧症とは?

私達の心臓は、全身に栄養や酸素を含んだ血液を送り出すポンプの機能を有しており、血圧とは、この血液が血管の内壁を押す圧力のことです。心臓が血液を送り出すために収縮した時の血圧を収取期血圧と呼び(俗に言う「上の血圧」)、逆に全身から血液が戻って心臓が拡張した時の血圧を拡張期血圧(下の血圧)と呼びます。
血圧は一日の中で変動しており、通常は朝の目覚めとともに上昇し、日中は高く、夜間・睡眠中は低くなります。また日常生活や運動、気温の変化などによっても変動します。そのため、たまたま測った血圧が高いからといって、必ずしも高血圧症とは限りません。高血圧症とは、くり返し測っても安静時の血圧が正常より高い状態を指します。
高血圧の中には、腎臓や内分泌などの病気により高血圧を呈するものがあり、はっきりとした原因がある高血圧を「二次性高血圧」と言います。それ以外の原因を特定できない高血圧については「本態性高血圧」と呼び、過剰な塩分摂取、肥満、運動不足、喫煙などといった生活習慣や遺伝的な因子が関与します。
高血圧症になると血管に負担がかかり、血管の内壁が傷ついたり、固くなったりして、動脈硬化を引き起こします。この動脈硬化を放置していると、脳卒中(脳出血や脳梗塞)や心臓病(心不全や狭心症・心筋梗塞)、大血管疾患(大動脈瘤や大動脈解離)、腎臓病(腎硬化症)といった、命に関わる重大な病気をもたらします。したがって、このような合併症を予防するためには正常な血圧を保つ必要があり、それこそが高血圧治療を行う理由なのです。

(2)症状

高血圧症の症状としては、頭痛、めまい、肩こり、動悸などが挙げられますが、重症になる前に見つかることが多く、むしろ症状がないケースのほうが多いようです。しかし、症状がないからといって放っておいていいわけではありません。症状が出てくる頃には、臓器障害が進行している可能性があるため、健康診断などで高血圧を指摘された場合には病院を受診するようにしましょう。

(3)診断

「白衣高血圧」や「仮面高血圧」という言葉をお聴きになったことはありますか?白衣高血圧とは、診察室で測定した血圧が高血圧であっても、診察室の外だと正常域血圧を示す状態のことを指します。逆に仮面高血圧とは診察室で測定した血圧が正常域血圧であっても、診察室の外だと高血圧を呈する状態を指します。このように、測定する環境によっても血圧が変動するため、以下の表のように環境に応じた基準値が定められています。

異なった測定法による高血圧の定義(mmHg)JSH2014より

  拡張期血圧   拡張期血圧
診察室血圧 ≧140 かつ/または ≧90
家庭血圧 ≧135 かつ/または ≧85
自由行動下血圧 24時間 ≧130 かつ/または ≧80
 昼間 ≧135 かつ/または ≧85
 夜間 ≧120 かつ/または ≧70

上記のように、診察室血圧が140/90mmHg以上である場合に高血圧と診断されますが、血圧値の程度によって下記のようにⅠ度〜Ⅲ度高血圧に分類されます。

成人における血圧値の分類(mmHg)JSH2014より

収縮期血圧   拡張期血圧
至適血圧 <120 かつ/または <80
正常血圧 120-129 かつ/または 80-84
正常高値 130-139 かつ/または 85-89
Ⅰ度高血圧 140-159 かつ/または 90-99
Ⅱ度高血圧 160-179 かつ/または 100-109
Ⅲ度高血圧 ≧180 かつ/または ≧110

(4)治療

二次性高血圧の場合は、その原因を取り除くことが治療の中心となります。腎臓の血管が狭いために生じる腎血管性高血圧ではバルーンやステントによるカテーテル治療を行ったり、副腎腫瘍によるホルモンの過剰分泌のために生じる原発性アルドステロン症では摘出手術を行ったりします。
本態性高血圧の場合は、「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の3つが治療の中心となります。高血圧と診断されれば、すぐに降圧薬の内服を始めなければならないと思いがちですが、生活習慣の改善といった非薬物療法が治療の基本となります。食事療法、運動療法を行っても血圧のコントロールが難しい場合や合併症がある場合などに、薬物療法で確実な降圧管理が行われます。

1. 食事療法

高血圧の食事療法で、最も重要なことは塩分を控えることです。塩分を摂りすぎると体内の水分量が増えるため、血圧は高くなります。高血圧の方では、塩分を6g未満に抑えることが勧められています。また適切な体重を維持するためのカロリーコントロールを考え、栄養バランスのとれた食事をすることも重要です。動物性脂肪の摂取をひかえ、お酒の量(エタノール換算で男性が1日20−30ml以下、女性が10-20ml以下)にも注意しましょう。

2. 運動療法

適度な強さの有酸素運動を続けると血圧が下がることが知られています。運動することにより肥満の予防やストレス解消にもつながります。しかし、適切な運動の強さは人それぞれであり、高リスクの高血圧の場合は不整脈や狭心症、脳卒中を誘発する可能性もあります。まずは医師に相談しましょう。

3. 薬物治療

食事療法、運動療法を行っても血圧のコントロールが難しい場合は、降圧薬を開始します。降圧薬には、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬、中枢神経作動薬などがあります。このうちの1種類、もしくは複数を組み合わせて内服していただきます。患者さんの病態や年齢などを考慮し、降圧薬を選択します。
通常の降圧目標値は診察室血圧140/90mmHg未満(家庭血圧135/85mmHg未満)ですが、後期高齢者ではまず診察室血圧150/90mmHg未満が目標値となります。また糖尿病や蛋白尿を有する慢性腎臓病の患者さんでは診察室血圧130/80mmHg未満を目指し、より厳格な降圧管理が必要とされます。

降圧目標 JSH2014より

診察室血圧 家庭血圧
若年、中年、前期高齢者患者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満
後期高齢者患者 150/90mmHg未満
(忍容性があれば140/90未満)
145/85mmHg未満
(忍容性があれば135/85未満)
糖尿病患者 130/80mmHg未満 125/75mmHg未満
慢性腎臓病患者(蛋白尿陽性) 130/80mmHg未満 125/75mmHg未満
脳血管障害患者・冠動脈疾患患者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満